みかわち焼き

やきもの用語・道具集

みかわち焼、および九州・肥前地区で古くから使われている技法や言葉の解説です。瀬戸や京都とも異なる、みかわち焼や肥前地区ならではの技法が、独自のやきものを生み出してきました。それらは言葉にも映し出されています。

網代陶石 [あじろとうせき]
寛永10年(1633)、今村三之丞(いまむらさんのじょう)によって佐世保市の針尾島三ツ岳(はりおじまみつがたけ)で発見された磁器用の石。天草陶石(あまくさとうせき)と調合され、白い磁器のみかわち焼が誕生しました。
天草陶石 [あまくさとうせき]
釉と素地のどちらにも用いられる陶石で、日本でつくられる磁器の最も主要な原料です。熊本県の天草下島の北西部で多く産出し、もともとは砥石(といし)として出荷されたものが、17世紀半ばに磁器の原料になることを発見されたと言われています。
絵描きさん [えかきさん]
独立して絵付けを生業とする職人の呼び名。
かな
器を削るための鋼鉄製の道具、カンナのこと。大きな削り用と、小さな削り用があり、なま乾きの生地の外側や、高台削りに用いられます。
窯づみ [かまづみ]
窯のなかに製品を入れていく作業のこと。ほかの産地では「窯づめ」「窯入れ」とも呼ばれています。
きりよま
形成した器をロクロから切りはなす時に用いられる糸。馬の尻尾が最高級品とされましたが、普通は藁(わら)の芯をよったものが使われました。
車屋 [くるまや]
生地屋(きじや)とも称される、ロクロを挽(ひ)くことを専門にする職人。
黒呉須 [くろごす]
染付(そめつけ)に用いる下絵の具の一つで、黒から灰色に発色するものの総称です。本来、呉須は藍から水色に発色するものですが、コバルトやマンガンなどを加えると黒系の色になります。明治から昭和時代初期にかけて、高級食器に黒呉須が多く用いられました。
呉須 [ごす]
コバルト化鉱物を含む鉱物で、染付(そめつけ)に用いる顔料(下絵の具)。絵付けののちに、釉を掛けて高火度で焼成すると水色から藍色に発色します。幾日もかけて摺(す)り、粉末にしたものを液体に溶かして使います。中国から、長崎の出島経由で輸入されていました。
骨描き [こつがき]
染付(そめつけ)の工程の一つで、細い筆を使い輪郭線を描くことです。この後、絵の具で面を埋めていく工程「濃み」を行うと、この輪郭線が堤防のような役割を果たし、外側に浸透することを防いでくれます。
シャク
器の径や深さなどの寸法を測るための、十字型をした竹製や木製の定規。他の窯場では「トンボ」「アタリ尺」とも呼ばれています。
ジョウハク/タイハク
御用窯(ごようがま)で焼かれたものを指します。そのなかでも優れたものを「上太白(じょうたいはく)」と呼びました。
スジ車 [すじぐるま]
染付で筋を引いたり、刷毛で塗るなど装飾の際に使用する手動式の小さなロクロです。
墨弾き [すみはじき]
染付の技法の一つで、細い線の白抜きに仕上げるための方法。呉須で描く前に、白く抜く部分を墨で先に描いておき、その後で呉須で骨描きや濃みを行います。高火度で焼成すると墨は飛んでしまいため、その部分だけが白くなります。
濃み  [だみ]
線描きされた絵に、絵の具「呉須(ごす)」の面やぼかしを加えることを「濃(だ)み」と呼びます。器の面に絵の具を染めていくような工程です。この作業をする人は「濃み手」と呼ばれます。濃い濃みや薄い濃みがあり、呉須をたっぷり含ませるための大きな濃み筆が用いられ、濃淡のニュアンスによって、遠近感や立体感が表されました。
点け濃み [つけだみ]
みかわち焼の特徴の一つ、筆を横にして呉須を器の面に溜めた上で流すように染み込ませていくことです。より滲んだぼかしに表情が生まれます。有田をはじめ広く一般的な方法は、筆を絞りスポイトようにして器の面に呉須をつたえていく「絞り濃み」です。
土ふみ
土のなかの空気を抜き、均質にすための作業で、かつては素足で両足の体重をかけ、外向きにまわりながら行っていました。「菊形フミ」と呼んでいます。
トンパン
幅20cm前後、長さ2mほどの松や杉の板。成形、絵付け、釉掛けなどそれぞれの作業の前後に置いて、移動したり、乾燥のために使います。
ハマ
焼成の際に、器の変形を少なくするために下に敷く、素焼きの台のこと。本州の窯場では、トチンと呼ぶことが多い。
へら
ロクロで形成する時、土を伸ばすために用いられる木製のへら。主には、押しべら(一番奥)、刺しべら(奥から2番目)、細べらの3種類があります。
ボシ
焼成の際、炎が直接当たったり、燃料の薪の灰が器に被らないために納める覆いのための容器。円形や四角形のやきもの製。ほかの産地では、「匣鉢(さや/さやばち)」「エンゴロ」とも呼ばれています。
水拭き [みずぶき]
成形した器は窯に入れる前に、女性によって水気を含ませた木綿布で拭き上げられました。水拭きすることで乾ききった生地の目止めをし、研磨によって表面を滑らかに仕上げました。
杵灰 [ゆすばい]
杵(いす)の木を焼いた灰で、釉薬の光沢を上品に落ち着かせるために混入されました。長らく九州産の磁器に欠くことのできないものでした。
綸子彫り [りんずぼり]
絹織物の織り方の一つ「綸子」(タテ糸とヨコ糸を反転させて文様を浮き出す)に由来するもので、器の面を紗綾(さや)文など連続した文様を彫ることを指します。
 
※この用語集は、窯元へのインタビュー、並びに『平戸藩御用窯総合調査報告書』(佐世保史談会、2002年)を参考にまとめています。